開馆寄語
北京の胡同を歩いたら、目の前を、手をつないで歩く親子が通って来た。
お父さんは自分の娘の鞄(かばん)を肩の上に背負い、左手にはビニール袋を持って、右手で自分の子供を連れ、二人は軽やかな足どりだった。
親子の後ろ姿を見て、私はすぐ追いかけて、また、止まってじっと見つめて、しばらくぼんやりとしていた。
私にとって、二人の後ろ姿は何か引っかかるものがあった。
久しぶりに心を刺すような感動が全身に走った。
二人の服装を見れば、すぐ分かる、金持ちでお洒落(しゃれ)な生活している家柄ではなく、でもその家族は温かい豊かな生活を過ごしていると強く感じた。
女の子はいつか大人になったら、自分のお父さんの後ろ姿を思い出すのかしら。私の少女時代も豊かとはいえない生活だった。その時の中国は飴(あめ)さえ簡単には食べられなかった。しかし、その生活の中にこそ、「生きている」という思い出が残っている。